
働き方改革関連法の適用によるドライバーの時間外労働の上限設定は「2024年問題」と呼ばれる、物流業界における大きな変化です。これにより、輸送力の低下による物流の遅延や人件費の上昇などが発生しています。この記事では、「2024年問題」の背景と、取るべき具体的な対策について詳しく解説します。
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そもそも「2024年問題」とは?
物流業界の「2024年問題」とは、2024年4月の法改正により、トラックドライバーの労働時間に新たな制限が設けられることによる一連の業界課題のことを指します。この制度変更は、政府が進める「働き方改革関連法」の一環であり、長時間労働を是正して労働者の健康や生活の質を向上させることを目的としています。
時間外労働の規制
一部の業界について、2019年から5年間猶予されていた時間外労働の上限が、2024年に物流業界においても適用されるようになりました。具体的には、トラックドライバーの時間外労働が年間で960時間までとされることになりました。これまで長時間労働が常態化していた業界にとって、この上限設定は非常に大きな転換点です。物流業界は、建設業や医療業界とともに特別な事情があるとされ、残業規制の適用に5年間の猶予が設けられていました。
しかし、その猶予も2024年3月末で終わりました。2024年4月からは、他の業界と同様にトラックドライバーにも厳格な労働時間の規制が適用されることになったのです。
適用の背景
しかし、なぜ時間外労働に対し、厳しい規制が導入されることになったのでしょうか。その背景には、トラックドライバーをはじめとする運送業従事者の過酷な労働環境があります。これまで業界内では長時間労働が常態化しており、慢性的な人手不足に拍車をかけてきました。とくに、若年層のドライバーがなかなか定着しない要因のひとつとして、厳しい労働条件が挙げられています。その労働環境がドライバーの退職者を生み、さらに人手不足につながるという悪循環が発生しています。
加えて、インターネット通販を中心としたEC市場の拡大も、物流現場の負担を増やす要因のひとつです。「翌日配送」や「時間指定配送」へのニーズが高まる一方で、それに応えるドライバーの数は減少傾向にあるので、現場の疲弊は大変深刻です。
こうした中で、国は2019年に「働き方改革関連法」を成立させ、物流業界に対して時間外労働の上限設定を義務付けるなど、労働環境の改善に向けた取り組みを進めてきました。
働き方改革関連法改正が物流業界に与えるポイント
2024年4月、物流業界における「働き方改革関連法」の適用は、業界にとって大きな転換点となっています。法改正の最大の狙いは、過重労働の是正と労働者の健康保持、そして長期的には持続可能な労働環境の確立です。働き方改革関連法の遵守は、ドライバーの労働環境を改善する一方で、企業にとっては運用体制の見直しやコスト増にも直結します。ここでは、法律の適用が物流業界に与えるポイントについて解説します。
残業規制
法律が適用されたことによるもっとも大きな影響は、自動車運転業務における時間外労働の上限規制の変更です。労働基準法では週40時間・1日8時間を基本とし、これを超える労働は時間外労働とされています。ただし、トラックドライバーのような業務は業態が一般的な業務とは異なり、また取引を円滑に進める性質上長時間労働が避けられないとされ、一定の猶予措置が認められてきました。
改正前は、年間1,176時間の時間外労働が可能でしたが、今回の改正で自動車運転業務にも年間960時間という時間外労働の上限が適用されました。
しかし、時間外労働と休日労働は100時間未満であること、2か月から6か月で平均80時間未満であることという規制は、自動車運転業務には適用されませんでした。
加えて、45時間を超える時間外労働が、6か月までに制限される規制は対象外です。いずれにしても、法律の適用による時間外労働の制限は、物流業界にとって従来の業務運用の見直しを迫る重大な変化といえます。
拘束時間の減少
また、拘束時間の見直しも大きなポイントです。「拘束時間」とは、始業から終業までの時間のことで、労働時間と休憩時間の合計を指します。改正後も1日の基本拘束時間は13時間に据え置かれますが、最大拘束時間は従来の16時間から15時間に短縮され、14時間を超えてよいのは週に2回までとされました。また、月間の拘束時間についても制限が強化されています。従来は、原則として月293時間までとされていましたが、改正後は年間総拘束時間を3,300時間以内に抑えたうえで、1か月の拘束時間は284時間が上限です。
さらに、繁忙期などで拘束時間が増加する可能性がある場合には、労使協定の締結を前提に、年間6カ月までは310時間までの延長が認められます。しかし、年間トータルで3,400時間を超えてはならないという制限が加わりました。
休息時間の規制
拘束時間の短縮にともない、休息期間の確保も課題とされています。従来は、勤務終了から次の始業まで8時間の休息があればよいとされていました。しかし改正後は、基本的に11時間の連続した休息時間を設けることが求められ、最低でも9時間は確保する必要があります。これを下回る場合には、その後の勤務終了時に12時間以上の休息を与えなければなりません。さらに、連続運転時間に関する取り扱いも変更されました。改正前は、連続運転時間が4時間を超える場合、荷積みや荷降ろしなどの「非運転時間」でも中断とみなされていました。
しかし、改正後はこれが「休憩」でなければならないと明記されています。つまり、作業を伴う時間では休憩としてカウントされず、実際に身体を休める時間を30分以上確保することが義務づけられたのです。
しかし、サービスエリアやパーキングエリアの混雑など、身体を休める場所・手段が確保されていない場合に限り、連続運転時間は最大4時間30分まで延長できます。
割増賃金の引き上げ
今回の法律適用により、割増賃金制度も変更されます。2023年4月以降、中小企業においても、月60時間を超える時間外労働に対しては、大企業と同様に50%以上の割増賃金率が適用されるようになりました。これに加えて、22時から翌5時までの時間外労働には25%の割増が上乗せされます。もし、60時間を超える時間外労働が深夜帯に行われた場合は割増率は75%となり、企業側には大きなコスト負担となるでしょう。
2024年問題が物流に与える影響
自動車運転業務への「働き方改革関連法」の適用は「2024年問題」と呼ばれ、業界は抜本的な改革を迫られています。物流業界が抱える構造的な課題が一気に表面化しており、今後の物流のあり方を問い直す、重大な転換点です。ここでは、働き方改革関連法の適用によって、具体的にどのような影響が生じるのか詳しく解説します。
売上・利益の減少
物流会社にとっては、売上の減少というリスクがあります。物流事業者は、ドライバーが稼ぎ出す売上が収益の柱であり、距離を走るテクニックや創意工夫も凝らされています。しかし、基本的には走れば走るだけ売上が増す、労働集約型のビジネスモデルが主流です。そのようなビジネスモデルのもとでは、多くのドライバーを雇い、長い距離を、多くの荷物を運ぶことで高収益がもたらされます。ところが、時間外労働の上限が年間960時間に制限されることで、ドライバー一人ひとりが担当できる業務量は確実に減少します。
いったん走行距離や配送回数が減ってしまえば、それだけ収益を得られる機会が減少することでしょう。さらに厄介なのは、業務量が減っても、車両の維持費や倉庫の賃料といった固定費は変わらないことです。
売上は減る一方で固定費は変わらないために利益が圧迫されるので、利益率を高く維持できる、経営の効率性がより問われるようになるでしょう。
人員を増やして業務量をカバーしようとしても、新たなドライバーの採用にはコストがかかります。人材の募集から教育まで、時間とお金が必要となるため、単純に人を増やせばよいという問題でもないのです。
ドライバー不足の深刻化
物流会社の売上・利益減少は大きな課題ですが、働き方改革の影響をもっとも直接的に受けるのは現場のドライバーたちでしょう。ドライバーの労働時間が短くなることで、時間に応じて支払われていた手当や残業代の減少につながり、結果的にドライバー自身の収入が減る可能性があります。これまで残業による手当を収入の一部としていたドライバーにとって、労働時間の制限は収入の減少を意味します。時間外労働ができなくなれば、これまで得ていた残業代が支払われなくなり、生活水準の維持がむずかしくなる人も出てくるでしょう。
また、求人を出しても「給料が低い」といった理由で応募が集まらず、新規採用が困難になる可能性も否めません。かつて高収入の職業であったドライバーの収入が下がることは、新しくドライバーを志す新人の流入をさまたげるので、もともと人手不足が深刻だった業界にとって、さらなる人材流出を招く重大な懸念事項です。
業界全体の物流効率低下
時間外労働の制限によって、ドライバー一人あたりの走行距離が減少することで、業界全体の物流効率が低下します。時間内で運べる範囲が短くなれば、とくに長距離輸送を担っている業者では、従来通りの配送スケジュールを維持することが困難になります。
結果として、荷物の到着が遅れたり運べる量が減ったりといった、物流全体の効率の低下が発生してしまうでしょう。
運賃の値上げ
こうした状況に対応するため、物流事業者が荷主企業との運賃交渉に踏み切る可能性があります。運送業務の収益が圧迫される中で、コストを適正に回収するためには、従来の運賃体系の見直しが必要になるからです。運賃の値上げによって売上の減少を補い、企業経営を維持しようとする動きが見られるでしょう。しかし、値上げには当然ながらリスクをともないます。
荷主企業にとって、物流コストの上昇は当然避けたい事態です。これにより交渉が難航したり、より安価な物流パートナーへの切り替えを検討されたりする恐れもあります。
2024年問題が荷主企業に与える影響
2024年問題は、これまでのような柔軟な輸送体制の維持がむずかしくなる、荷主においても大きな課題です。具体的には、どのような影響が想定されるのでしょうか。値上げが実施される
まず、運賃が値上げされる可能性が非常に高くなると予想できます。これまで、長時間労働によって物流の現場を支えてきたドライバーの労働時間が制限されることで、ひとりあたりの稼働時間は大きく減少します。運送会社はその減少分の売上を補うために、運賃を引き上げざるを得なくなるでしょう。運送会社の運賃値上げは、そのまま荷主企業の物流コスト増加につながります。
サービスを維持できない
物流コストの上昇は、荷主企業の利益を圧迫するだけでなく、いままで継続してきたサービスや値段を見直さなければならなくなります。ビジネスモデルを大きく変革させざるを得ない事態を引き起こしているのです。たとえば、これまで「送料無料」をうたっていたサービスは、コストの負担が重くなれば継続がむずかしくなるかもしれません。さらに「翌日配送」のサービスは、ドライバーの継続運転時間の減少や休憩時間の厳密化によって阻まれる可能性が高くなります。
加えて、サービスを継続するために製品価格へ転嫁すれば消費者にとっての負担増となり、競争力の低下につながる懸念もあります。物流費の上昇を受け入れるか、あるいは他の運送業者を探すか、それともサービスを見直すのか、厳しい判断が必要です。
業務効率化を迫られる
物流業界に大きな転換点をもたらす「2024年問題」は、荷主にとって今までのサービスが維持できなくなり、輸送そのものが従来通りに実施できなくなる大きなリスクです。さらに、輸送そのものが断られる状況に陥る可能性も否定できません。これにより、工場の出荷スケジュールや小売業の納品体制に遅れが生じ、サプライチェーン全体が混乱する恐れもあります。そうしたリスクを避けるためには、企業ごとの業務フローや納品スケジュールの見直しが必要不可欠になるでしょう。
スピード感をもってすぐ配達する体制を見直し、中長期的な納品計画の策定が求められる時代に突入しているといえるでしょう。業務効率化の一環として、バース予約システムなど、システムによる効率化を図ることもひとつの解決手段です。
荷さばき場の利用を予約・管理する仕組みであり、ドライバーの待機時間を削減し、作業効率を高めるシステムです。2024年問題は、運送会社やドライバーだけの問題ではありません。
荷主企業は受け身の姿勢ではなく、物流業界を維持・発展させるため、積極的な対策と協力姿勢が必要です。物流事業者との連携を密にし、輸送手段やスケジュールを見直すとともに、IT技術を活用したシステムの導入や、倉庫業務の効率化にも取り組むことが求められます。
2024年問題に対する物流事業者に求められる労務管理・対策
働き方改革関連法の物流業界への適用により、トラックドライバーの時間外労働に上限が設けられるなど、多くの変化がもたらされました。物流事業者はこの変化に対して、今までの常識をリセットして向き合わなければなりません。法律に対応できない場合、たとえば年間960時間を超える時間外労働を命じた場合、事業者には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金といった刑事罰が科される可能性があります。
こうした法的リスクを回避するためにも、企業には徹底した労務管理が求められ、真剣に取り組む必要があります。ここでは、物流事業者に求められる労務管理や対策について解説しているので参考にしてください。
労務状況の把握
適切な法令対応のためには、まず自社の労務管理の実態を把握することが大切です。現状を正しく理解し、どこに課題があるかを明らかにすることで、労働法令違反のリスクを低減できます。具体的には、雇用時に労働条件をきちんと書面で伝えているか、固定残業制を採用しているケースでは、内容がしっかりと説明されているかを確認しましょう。
さらに、土曜日などの週6日目の勤務を残業扱いとしているか、あるいは業務中のトラック破損時に保険の免責分を労働者に負担させていないかといった点も確認の対象です。
加えて重要なのが、勤怠管理の精度です。賃金未払いをめぐるトラブルは、労務管理の不備から発生するケースが少なくありません。
労働時間が適切に記録されているか、最低賃金を下回っていないか、給与体系の説明は十分か、割増賃金の支払いが適切に実施されているかといった観点から、運用の実態を慎重に確認すべきです。
人事制度の見直し
持続可能な企業運営と従業員満足度の向上を両立するためには、働き方改革関連法などの労働法令の遵守に加えて、人事制度そのものの制度設計が不可欠です。それぞれに異なる業務実態や労働環境があるため、まずはドライバー職とそれ以外の職種を分けて考え、制度設計も個別に行う必要があります。ドライバーの制度設計においては、段階的に見直しを進めるとスムーズです。第一に、労働時間の正確な把握を実施しましょう。そのうえで時給単価を計算し、現行の支払いが市場水準や法令に見合っているかを見直します。
さらに、場合によっては歩合給や評価給といった制度の導入・改善も検討するとよいでしょう。具体的には、配送効率や安全運転の実績などを公正に評価して給与に反映させることで、従業員のモチベーション向上にもつながります。
将来を見越して制度設計する
人事制度などの制度設計にあたっては、2024年問題への対処だけにとどまらず、企業としての将来像を見越した方針をしっかりと確立することが求められます。法令に対応するためだけの制度変更では、従業員からの理解や共感を得にくいでしょう。しかし、長期的な視点に立ち、従業員が安心して働ける職場環境づくりを進めることで「この会社で働き続けたい」と思ってもらえる組織に近づきます。
2024年問題は、物流企業にとって大きなリスクであると同時に、業務のあり方や人材活用を見直す契機でもあります。法令遵守はもちろん、従業員の働きやすさと企業の持続性を両立するためには、計画的かつ前向きな労務管理と制度改革が不可欠です。
2024年問題を乗り切るために荷主企業がするべき対策
物流業界が直面する2024年問題により、物流の供給力が落ち込み、業界全体に大きな影響をおよぼしています。こうした背景を踏まえ、荷主企業にも大きな変革が求められています。物流事業者だけで解決できる問題ではなく、荷主側の取り組みも不可欠です。ここでは、2024年問題に対し荷主企業がするべき対策を紹介します。
人材確保
まず手をつけるべきは、人材確保に向けた取り組みです。法改正により、これまで以上にドライバーひとりあたりの運べる荷物量が減少します。そのため、安定的な物流体制を維持するには、新たな人材の確保と既存従業員の定着が不可欠です。そもそも物流業界は慢性的な人手不足に悩まされており、業界全体で高い有効求人倍率が続いています。そのため、荷主企業としても労働環境や労働条件の整備に目を向けることが重要です。
具体的には、長時間労働の是正や時短勤務制度の導入が有効です。働きやすい職場づくりを進めることで、求職者にとって魅力ある企業となり、人材を確保しやすくなります。
また、住宅手当などの福利厚生の充実や、女性・高齢者の就業を支える制度の整備も重要なポイントです。こうした取り組みを通じて、より多様な人材を迎え入れる環境を整えることが、将来にわたる安定的な経営基盤づくりにつながります。
広報活動
対外的な広報活動も重要です。2024年問題を物流業界だけの課題としてとらえるのではなく、消費者や異業種の関係者にも関係する社会全体の課題として広めることが求められます。そのためには、SNS、ブログ、自社サイトやパンフレットなどを活用して、運賃の上昇や配送時間の延長が発生する背景についてていねいに伝えることが大事です。こうした情報発信により、適正な運賃改定への理解が得やすくなり、協力体制の構築もスムーズになるでしょう。
モーダルシフトの推進
2024年問題の根本的な対応策のひとつとして挙げられるのが、モーダルシフトの推進です。トラックによる長距離輸送の限界を補うためには、鉄道や船舶への輸送手段の切り替えが非常に有効です。政府もこの方針を後押ししており、国土交通省による補助金制度のほか、鉄道や船舶輸送量の拡大目標を掲げています。物流システムの導入
業務の効率化に向けた、物流システムの導入も不可欠です。働き方改革によって労働時間に制限がかかるなか、従来通りの業務体制では持続的な経営は困難です。たとえば、トラックの荷待ち時間が長引くとドライバーの拘束時間が増加し、結果として運送効率が低下します。この課題を解決する手段のひとつが「バース予約システム」などの物流システムの導入です。来場車両の分散を図ることで混雑を避け、荷待ち時間の大幅な短縮が可能です。クラウド型のシステムであれば初期導入も迅速に行えるため、短期間での稼働開始が期待できます。
加えて、配車支援システムなどのDXツールを活用すれば、トラックの稼働状況や走行履歴を可視化でき、非効率な運用の見直しにもつながります。
電話やFAXを使ったアナログな対応から、システムでの配車や配送案件、請求処理に切り替えることで、一元管理が可能です。これらの取り組みにより、業務のスピードと正確性は格段に向上することでしょう。
作業効率の向上
無駄な荷待ち・荷役時間の削減も、2024年問題で解決しなければならない課題です。とくに手積み・手卸し作業は、ドライバーの負担を大きくして拘束時間を長くする、物流におけるボトルネックです。パレットや外装サイズの統一といった取り組みを進めることで作業効率が向上し、無駄な荷待ち・荷役時間の削減が期待されます。
さらに、スワップボディコンテナの導入により、車両と荷台を分離中に荷役作業できる体制を整えれば、ドライバーが荷役作業の完了を待たずに別の輸送に従事できます。これにより、拘束時間の削減にもつなげられるでしょう。